2025/09/01 21:25
狐秋桜堂の音楽室。
五線譜の隙間に広がる、音と記憶の狭間。
そこに住まう音符精霊たちは、日々旋律を紡ぎながら、現実とは無縁のように見える—が...
「幻想の隙間にも、備えは必要だよ」
夜杜は、譜面の裏側に足を踏み入れ、精霊たちに声をかける。
「今日は防災の日。今年も、避難経路と非常音を確認しておこう」
精霊たちはざわめきながら集まる。
ト音記号の精霊は、避難ルートを描いた譜面を広げる。 それは、五線譜の隙間を縫うように走る「旋律の避難路」——音階の高低を利用した立体的なルートだ。
《五線譜の隙間・防災訓練メニュー》
♫音符精霊の避難訓練:高音域から低音域へ滑走。音階の波を使って安全に移動。
♫音楽室との連絡手段確認:和音による信号。Cメジャーは「安全」、Dマイナーは「注意」、不協和音は「緊急」。
♫非常用音源の準備:飴の包み紙を使った即席マラカス。音で居場所を知らせる。
♫揺れの予兆を察知する「不協和音センサー」設置:空間の歪みを音で検知。微細な振動を拾う。
♫精霊たちの記憶保管:旋律の断片を瓶に封じ、万一の譜面崩壊時に再構築できるように。
「夜杜さん、もし五線譜が崩れたらどうするんですか?」
小さな休符精霊が不安げに尋ねる。
「その時は、旋律の記憶を頼りに再構築する。音楽は、壊れても再び生まれる力を持っている」
夜杜は、瓶に封じた旋律をそっと撫でる。
訓練の途中、エルム・ヴァレリアが持ち込んだ楽譜が暴走した。
精霊たちは慌てて避難ルートを駆け抜け、和音信号が鳴り響く。
夜杜は冷静に飴缶を開け、今度はほんのり塩味の梅飴を口に含む。
「落ち着いて。これは訓練の一環だ。君たちの反応は上出来だよ」
彼の言葉に、精霊たちは胸をなで下ろす。
年に一度の防災訓練が今年も無事終了した。
訓練の最後、夜杜は音楽室に戻り、現実の譜面台に飴缶を置いた。
「幻想の隙間にも、命を守る準備はできる。音楽がある限り、希望は響き続けるんだよ。」
夜杜はまた来年の今日まで
"避難訓練"を"実践"しなくて済むよう祈った。

