2025/09/22 09:37

狐秋桜堂の音楽室に、静かなざわめきが満ちていた。  

今夜は、音楽記号たちの会議。  

譜面の隙間から、記号たちが次々と姿を現す。

 

夜杜はシルクハットを外し、飴缶を開ける。  

今夜の飴は、ラムネ味。議論の熱を冷ますための選択だった。


最初に発言したのは、ト音記号。  

「私は旋律の導き手。高音域の光を照らす存在。  

最近、右手の旋律が少し迷子になっている気がする」


へ音記号がゆっくりと応じる。  

「私は低音の根。左手の支え。  

光が強すぎると、影が薄れる。バランスが必要だ」


シャープ記号が鋭く割り込む。  

「調性が変われば、世界も変わる。  

私たちの役割は、ただの飾りではない」


フラット記号が柔らかく微笑む。  

「でも、変化には緩やかさも必要。  

急な転調は、聴く者の心を置き去りにする」


休符たちは黙って並び、沈黙の重要性を示していた。  

「音楽は、音だけではない。  

間があるからこそ、響きが生まれる」  

休符の一つが、そっと囁いた。


拍子記号が中央に立ち、議論をまとめる。  

「私たちは、時間の枠組み。  

自由な音も、秩序の中でこそ輝く」


夜杜はピアノの前に座り、鍵盤に指を置く。  

記号たちの言葉を受け止めながら、ひとつの旋律を奏でる。  

それは、すべての記号が共に生きる音楽だった。




記号たちは、譜面の隙間へと戻っていく。  

それぞれの役割を胸に、次の演奏に備えて。


「音楽は、記号たちの対話の結晶。  

その声を聴ける者だけが、旋律の奥に触れられる」  

夜杜は飴を口に含み、静かに微笑んだ。